北アルプスに位置する、標高2,922mの大天井岳(おてんしょうだけ)。
そこには登山客にとって、オアシスのような「山小屋」が存在する。
その山小屋に明かりを灯し続けるスタッフは、一年の約半分の生活を山の上で送っている。
コンビニエンスストアはおろか、電波すらままならない山の上で、
一体どのような生活を送っているのだろうか。
ということで、今年で山小屋ライフ4年目を迎える、先輩クライマー三村さんにインタビュー!!
宜しくお願い致します!

三村さん
登山シーズンは山小屋で働き、冬季は東京を拠点にクライミング生活をエンジョイしている、生粋のアウトドアガール。
大の音楽好きでもあり、2025年のoasis来日公演の際には、山小屋から直行直帰でライブに参戦するという、前代未聞の偉業を成し遂げている。
——-本日は宜しくお願い致します!三村さんは今年も山小屋に行かれるということで、4シーズン目になりますね。
そうだね、今年で4年目。去年まで「大天荘」っていう小屋で働いていて、
今年は「ヒュッテ西岳」で働く。同じ北アルプスだよ。
——-初めての山小屋勤務に、大天荘を選んだのはどういった理由で?
大天荘は、私が一番好きな山小屋だったから。
初めての登山の目標が、大天井岳でテント泊するっていうことで。
でもその目標は叶わなかったんだけど、体力的にきつくて(笑)
テント装備だし、15kgくらい荷物があったのかな?もう全然たどり着かなくて、手前の燕岳(つばくろだけ)でテント泊して帰ったんだよ。
それで次の年にリベンジして、初めて大天荘に泊まって。めっちゃ良い小屋だったから、もうそこで働いてみたいなっていう(笑)
雪化粧の大天荘
大天荘
大天井岳山頂直下の山小屋(2,870m)。
初っ端から急登が続くハードモード全開の合戦尾根を超えると、燕山荘に到着。
そこから北アルプス屈指の美しい縦走路へと続き、その先に大天荘がある。
——-元々山小屋で働いてみたいな〜っていう漠然としたイメージは持っていたんですか?
いや、それは全然無くて。
山にハマったのも新型コロナウイルスが流行った頃からで、クライミングもそうなんだけど。
コロナ禍で時間があって、何か新しく初めてみようかなってキッカケになった感じかな。
その時は映像編集の仕事をフリーランスでしてたんだけど、仕事も少なかったから
じゃあもう一念発起、山小屋で働こう!みたいな(笑)
——-そうだったんですか。にしても、山にハマってから、小屋で働くまでのスピード感が早い(笑)
じゃあクライミングは、山登りから入った感じですね。
そう、なんか山登りのトレーニングになるかなみたいな感覚で。
それでLagoが近くにあったから、通い始めて。 ※Lago-三村さんのホームジム。
だからボルダリングは、軽く運動程度って思ってたんだけど、Lagoはなんか岩のジムって感じだから(笑)
——-それで今日もこの大寒波の中、群馬の山の中まで来てしまっていると(笑)
”ハブとマングース”をトライする三村さん
山小屋で働いている間は、クライミングが出来る環境ってあったりするんですか?
小屋の周りは脆くて小さな岩しかないから、登るには適してないかな。
穂高連峰は荒々しい岩場が多くて、アルパインクライミングで有名なルートが多いんだけど。
縦走路で登れそうな岩があるとテンション上がるよね。
ジムに通えないから、保持力落ちないように小屋の柱で懸垂してたよ。
——-なるほど、シューズとかは一応持っていくんですか?
初年度は持って行ったかな。
登れるような岩はなかったけどね(笑)
——-(笑笑)
それではいよいよ、気になる山小屋の働き方についてお訊きしていきたいのですが、まず1年のサイクルはどのような感じなんですか?
小屋の営業期間は6月から11月の1週目あたりまで。
オープンの1週間前にスタッフが入って、お客さんを迎える準備をする。
ヘリで輸送してもらった食べ物や燃料を運び入れたり。
初年度は悪天候でヘリが飛ばなくて大変だったよ。
男性スタッフが物資を歩荷してくれて、なんとか間に合ったんだけど。
最終営業日は、11月の1週目まで。で、またそこから小屋締め作業で1週間あるかな。
雪の重みで小屋が潰されないように支柱を何本も立てたり、
あらゆる物を濡れないようにビニール袋で包んで、小屋の窓や扉も塞いだり、
やることがたくさん。
それで11月の2週目あたりでみんなで自力下山。
去年はあまりにも雪が降っちゃったから、ヘリで下山したんだけど(笑)
6月の小屋開け準備では、一度布団を全部干す仕事がある。布団が吹っ飛んだ!
——-じゃあ半年間のシーズン期間中は基本山に篭りっきりな感じですか。休みとかはあるんですか?
まとまった休暇が3回あるかな。
その時は他の山へ遊びに行ったりしてる。
でも7月8月は休みはぼ無いね。一番繁忙期だから。その2ヶ月間は働き詰め。
——-あ、じゃあ週休っていうのは、、、
無いね。(笑)
お客さんが少ない6月とか10月に、1日休みが貰えたりもする。
天気が悪いとお客さんゼロって日もあるんだけど、
最近は悪天候でも登ってくる海外のお客さんが増えてるから…
——-中々ハードですね、、。1日のサイクルはどんな感じなんですか?
朝番と遅番があって、出勤時間は日の出の時間によって変わってくるんだけど。
一番早い時は、お客さんの朝ごはんが4時45分で、その1時間前から出勤。
だから3時45分スタートかな。
午前中は客食の仕込み作業をしつつ怒涛の昼食営業、午後はお客さんのご案内と夕食準備。
スタッフの食事も持ち回りで担当してて、大体19時30分に夕食。
それで消灯が20時30分で、小屋の電源が全部落ちるの。
そうすると勿論電波も繋がらないし、暗いから、もう寝るしかない(笑)
——-めちゃくちゃ規則正しい生活ですね(笑)
ちなみに働いている人数とか、男女比率とかは?
支配人以外のスタッフは8人で、1年目は男子4人女子4人だったんだけど、
去年なんかは女子6人の男子2人。
他の小屋でも結構女性が多い印象かな。増えてる気がする。
——-それは意外でした。
三村さんが山小屋へ何年も行かれているのは、やっぱり楽しいからなんでしょうか。
う〜ん、初年度は本当に忙しすぎて、何が何だか分からないままワンシーズンが終わっちゃって。
振り返ると、もうちょっとこういうこと出来たなとか、後悔もあって。
それで、リベンジ!って気持ちで2年目は行って。そしたら2年目は、もう楽しくて(笑)
余裕ができたし、スタッフ同士も良い関係が築けて。
で、楽しすぎたから3年目もやろうってなって。(笑) 今、その延長線にいるんだけど。
勿論自然も好きだけど、人が好きなのかもしれない。
お客さんに名前を覚えてもらって、仲良くなって、 「じゃあ来年もまたここで会おうね」って。
そうしたら、来年もまたここで会いたいから頑張ろう、みたいな。それもあるかな。
——-じゃあ毎年同じ山に登ってこられる方が結構いらっしゃるんですね。
そうなの。常連さんがいる。
私がいた小屋に限らずだとは思うんだけど、とにかく常連さんが多くて。
支配人が、また凄く人に好かれるというか。
もう20年以上山小屋の支配人をしているんだけど、その人に会いにみんな登りに来てる、って感じ。
雰囲気も小屋によって違うし。そういう支配人がいるから、良い小屋。だから、そこで働くスタッフも良い人達、みたいな。
きっとそうやって同じ空気感を作れているから、お客さんもスタッフのことを覚えてくれて、仲良くしてくれるんだなって。

大天荘の周りから見える景色
——-話が変わりますが、
昨年の山小屋のオフシーズンの間、南米に長期で旅行してましたよね。
1ヶ月くらいかな、南米にいたの。
まずチリの南部から、パタゴニアに入って。
パタゴニアが旅の一番の目的だったから、アルゼンチン側からも入って。
次にブラジル行って、メキシコ。4か国か。4か国しか回れなかったんだ、一ヶ月で(笑)
——-充分じゃないですか(笑) 目的のパタゴニアはどのような形で?
「Wサーキット」っていう一番メジャーなコースをテント泊で歩いたよ。
チリのパイネ国立公園内を 4日間かけて歩くんだけど、2日目まで天気が悪くて…
テントは濡れて重いし…
最終日、雲の切れ目から3本の岩(トーレス・デル・パイネ)が現れた時は
圧倒的な存在感に感動したよ。
その場に居合わせた韓国人の女の子がたくさん写真を撮ってくれた(笑)
その子もソロで、その後のアルゼンチンのフィッツロイでも会って。
そういう出会いも楽しかったな。
フィッツロイは日数が足りなくて日帰りで。
朝日で赤く染まるフィッツロイを見に、4時ごろから歩き始めたんだけど、
この日も天気運がなくて期待した景色は見えなくて…
リベンジしたい(笑)
フィッツロイのあるエルチャルテンって町は、周辺にボルダーが点在してて、
ロケーションもいいしクライマーにとって最高の場所だよ。
岩もかっこいい。シューズ持っていくべき!

(上)アルゼンチン エルチャルテンの街から見える、パタゴニアのフィッツロイ
(下)チリのトーレス・デル・パイネ国立公園での一枚
パタゴニアって、”風のパタゴニア”って言われるくらい、風がめっちゃ強いのね。
で、私が行く日も、風速30mくらいあって。 これはもう撤退かなって。
山では風速10m/sを超えると体感温度も下がるし、遮るものがない稜線だと遭難のリスクも高まるし、本当に危ないから。
でもパタゴニアで出会った人たちは、 「それも楽しもうよ!」 「不安なことを考えるより、行動しよう!」みたいな(笑)
それで行ったら、私、一回風に吹かれて飛んでったんだけど(笑)
何とか木にしがみついて、鯉のぼりみたいな状態(笑)
そんな環境でも、「みんなで肩組めば大丈夫だよ!」 って一緒に混ぜてくれたりして。
その時の環境を楽しめる温度差の違い、みたいなのは、パタゴニアで凄い感じたかな。
——-なるほど。海外の山を歩くと、そういった発見もあるんですね。
トレイルもすごく綺麗なんだよね。登山道は整備されてるし、アップダウンも少なくて歩きやすい。
あとテントサイトにゴミ箱もあって。
それって凄いことで。え?ゴミを捨てて行っていいんだって(笑)
日本の山だと各自で持ち帰るのがマナーだから。
スタッフもみんな凄いフレンドリーで。若くて、活気があって良かったな。
自炊場とかも簡単な作りではあるけど、ちゃんとデザインされてて自然に溶け込んでて。
トイレとシャワーもこまめに掃除されててめちゃくちゃ綺麗!
山小屋もあるけど、ホテルもあるし、快適そうな常設テントもあるから、
色んな歩き方が出来る場所だなって。
私の親くらいの年齢の人も歩いてるし、歳を取ってもまた行きたいって感じかな。パタゴニアは。
ぜひ行ってみてほしい。
三村さんが一番印象的だったという、トレッキングの最終日 4日目の朝の一枚。
目の前の丘から馬の群れが駆け降りてきた。
——-めっちゃ興味が湧いてきました!行ってみたいな〜。
では最後に、山小屋で働きたいと思っている人に、何かアドバイスがあればお願いします!
これ難しいね…
何だろう、新しい出会いと発見を楽しめれば良いのかな。
大変なこともあるけど(笑)、でもそれも山小屋だし、窓の外は雲の上だし。
経験する価値はあると思う。
あと、腹巻きと温かい靴下があれば快適!

words : dropknee
photos : Naho Mimura , dropknee

